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奈良地方裁判所 昭和43年(わ)33号 判決 1974年6月13日

主たる事務所の所在地

奈良県大和高田市南本町二番一四号

大和高田市農業協同組合

右代表者仮理事

竹村奈良一

本籍

奈良県大和高田市大字土庫六四九番地

住居

同県同市大字大道五丁目一四〇五の一

無職(元大和高田市農業協同組合理事)

細川平一

明治四三年二月一五日生

右大和高田市農業協同組合に対する法人税法違反、右細川に対する背任、贈賄、業務上横領、法人税法違反各被告事件につき、当裁判所は検察官大口善照出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人細川平一を懲役参年に、

被告法人大和高田市農業協同組合を罰金壱千壱百万円に、それぞれ処する。

訴訟費用中、証人大谷雄次郎(昭和四四年六月三〇日出頭)、同市川節雄、同岡田諒、同大西康之に支給した分の各二分の一および証人大谷雄次郎(昭和四六年三月八日、同年五月一七日出頭)、同当麻平助、同大西吉美に支給した分の各全部を被告人細川平一の負担とし、証人大谷雄次郎(昭和四四年六月三〇日出頭)に支給した分の二分の一を被告法人大和高田市農業協同組合の負担とする。

理由

(事実)

被告法人大和高田市農業協同組合は、昭和二三年七月二八日設立され、主たる事務所を大和高田市南本町二番一四号に置き、同四二年三月三一日現在において自己資本約二四〇〇万円、同四三年一月三一日現在において自己資本約三五〇〇万円を有し、組合員の事業または生活に必要な資金の貸付、組合員の貯金または定期積金の受入等の事業およびこれに附帯する事業を営むほか、奈良県信用農業協同組合連合会高田代理所の事務の代行等をもしている農業協同組合、被告人細川平一は昭和二六年六月二日から同四三年三月三一日までの間、右組合の組合長たる理事として同組合の行なう業務一切を総括掌理していた者であるところ、

第一  被告人細川は、右のとおり大和高田市農業協同組合の組合長たる理事として同組合の行なう資金の貸付に関する業務全般を処理していたが、同組合においては、農業協同組合財務処理基準令、同組合定款により、組合員以外の者に対して例外的に資金の貸付をすることが認められていたけれども、その場合における貸付金の額は、その貸付を受ける者ごとに同組合の自己資本の一〇〇分の一〇に相当する金額を超えてはならず、かつ営利を目的とする法人に対する貸付は一切許されていなかったのであるから、同組合の組合長たる理事としては、員外者に資金を貸し付けるにあたり右のような法令および定款の規定を厳守することはもちろん、貸付金回収のため確実な担保を徴して損害を防止するなど、組合のため忠実にその職務を遂行すべき任務を有していたのに、昭和三二年三月ころ、水道工事の施工、請負等を業とする進弘企業株式会社(本店所在地大和高田市旭南町二番六号)の代表取締役社長である安井義治から、同会社に対し手形貸付による融資をするよう懇請を受けて承諾し、同年四月一日から右安井個人に貸し付けるという形式で同組合資金の継続的な貸付を開始し、その後同三四年六月からは右会社の名義による手形貸付を行なった結果、同三八年六月末現在において、同会社に対する貸付金総額が八億三七五五万五〇〇〇円、回収金総額が六億〇七五〇万五〇〇〇円、差引貸付金残高が二億三〇〇五万円となったのに対し、当時におけるその担保として、債権極度額一〇〇〇万円の不動産上の根抵当、定期貯金四五七四万四五五〇円、定額積金払込済金一三三八万八〇〇〇円が存したに過ぎず、取り急ぎ他の不動産をも加えて債権極度額五〇〇〇万円の根抵当を追加する措置をとったものの、これを算入してもなお前記貸付金残高との間に一億一〇九一万七四五〇円の担保不足がある状態であったのみならず、前記会社からの貸付金回収は右安井をはじめとする同会社責任者らの確約にもかかわらず常に滞りがちで同会社の経営が順調でないことが容易に推測でき、このうえ確実な担保を追加させることなく貸付を継続しあるいは増額するにおいては多額の貸付金について回収不能の事態を招来する危険のあることを認識しながら、そのころさらに右安井からの融資継続および増額の懇請を承諾し、右安井と共謀のうえ、前記会社の利益を図る目的をもって、組合長たる理事としての前記任務に背き、昭和三八年七月五日から同四三年二月一〇日までの間、継続して前後二九五回にわたり、大和高田市南本町二番一四号の前記組合の事務所において、員外者で営利法人である前記会社に対し、法令・定款の制限を超え、十分な担保を徴することなしに、手形貸付の方法により同組合の資金合計六八億四四一一万九七八〇円を貸し付け、その間前後二九五回にわたり合計五一億一三八六万九七八〇円を回収し得たのみで、貸付金残高を一九億六〇三〇万円に増大させ、他方これに対する担保としては、不動産に対する債権極度額七〇〇〇万円の根抵当、定期貯金四億一四二一万三九二二円、定額積金払込済金七八二万六〇〇〇円、合計四億九二〇三万九九二二円を徴したに過ぎず、よって同四三年二月一〇日現在、その差額一四億六八二六万〇〇七八円につき回収不能の状態を招来し、もって右組合に財産上の損害を加え、

第二  被告人細川は、冒頭記載のとおり大和高田市農業協同組合の組合長たる理事として、同組合の金銭の出納、現金貯金通帳の保管等の業務一切を総括処理していたが、同組合参事松並溥と共謀のうえ、

一  別紙第一「現金横領一覧表」記載のとおり、昭和三六年六月一〇日ころから同四二年一二月五日ころまでの間、前後二七回にわたり、いずれも大和高田市南本町二番一四号の前記組合の事務所で、右組合のため業務上保管中の同組合の現金合計二一〇六万八〇〇〇円をほしいままに自己の用途にあてるため、それぞれ着服して横領し、

二  同三九年一〇月ころ、前記事務所で、右組合のため業務上保管中の同組合所有にかかるいずれも同組合発行の月田誠一名義の額面五〇万円、水原宏名義の額面五〇万円、鈴木和夫名義の額面三五万円、石原淳名義の額面五〇万円、篠置昭男名義の額面五〇万円、長谷川宇礼雄名義の額面一〇万円、富士川欣也名義の額面四〇万円、石井俊子名義の額面五〇万円、吉沢道子名義の額面五〇万円、稲垣重雄名義の額面五〇万円の各定期貯金証書計一〇通、額面合計四三五万円をほしいままに自己の用途にあてるため着服し、前同様の福田俊子名義の額面五三万円、野口利一郎名義の額面四二万四〇〇〇円、高田敏子名義の額面六三万六〇〇〇円、松川吉美名義の額面二三万五一六九円、富山隆男名義の額面三八万七一九六円の各定期貯金証書計五通、額面合計二二一万二三六五円をほしいままに前記松並に贈与し、もって以上の定期貯金証書合計一五通、額面合計六五六万二三六五円を横領し、

第三  被告人細川は、冒頭記載のとおり大和高田市農業協同組合の組合長たる理事であった者、木本秀治は昭和二一年四月一日大蔵事務官となり、同三九年七月一日から同四一年六月三〇日まで奈良県下葛城税務署直税課に同課長として勤務し同年七月一日から同四二年六月三〇日まで大阪府下堺税務署所得税第二課長として勤務していた者、谷口迅央は昭和二三年七月一日大蔵事務官となり、同三八年七月二三日から同四一年七月七日まで前記葛城税務署直税課に法人源泉係員として勤務し同月八日以降同四三年二月二四日現在奈良市内奈良税務署法人税課に国税調査官として勤務していた者、西岡俊徳は昭和二四年八月三一日大蔵事務官となり、同三九年七月二二日から同四一年七月七日まで前記葛城税務署直税課に法人源泉係員として勤務し同月八日以降同四三年三月一一日現在大阪市内港税務署法人税課に国税調査官として勤務していた者で、右木本、谷口、西岡はいずれも前記葛城税務署勤務中法人税、源泉徴収所得税等の賦課および減免、課税標準および税額の調査等に関する職務ならびにこれらに附随する職務を担当していたのであるが、

被告人細川は

一  昭和四一年七月四日、大和高田市南本町二番一四号所在大和高田市農業協同組合事務所で、前記木本秀治に対し、同人から葛城税務署在勤中右組合についての法人所得調査、法人税額更正決定、青色申告承認取消猶予等に関して好意ある取計らいを受けたことに対する謝礼として現金五万円を供与し、

二  同月一一日、奈良市川上町三笠温泉郷所在料理旅館「九重」で、前記谷口迅央に対し、右と同じ趣旨で現金五万円を供与し、

三  同日、同所で、前記西岡俊徳に対し、右と同じ趣旨で現金五万円を供与し、

もってそれぞれ同人らの前記職務に関して贈賄し、

第四  被告人細川は、冒頭記載のとおり被告法人大和高田市農業協同組合の組合長たる理事として被告法人の業務全般を総括掌理していたが、被告法人の業務に関し法人税を免れようと企て、同組合利用者の支払った手形貸付金および当座貸越に対する利息、奈良県信用農業協同組合連合会から受取った定期預金利息および同連合会高田代理所事務代行手数料等の収入の一部を正規の帳簿から除外し、また組合利用者の普通貯金に対する定期利息計算の際に架空の支払額を計上して、別途設定した架空人名義の貯金口座にこれらを入金し組合に留保するなど、不正の手段によって所得を隠匿したうえ、

一  昭和三九年四月一日から同四〇年三月三一日までの事業年度における被告法人の実際所得金額は四〇五四万四七二六円で、これに対する法人税額は一一二八万三六九〇円であったのに、同四〇年五月二六日、奈良県大和高田市内の所轄葛城税務署で、同署長に対し、被告法人の右事業年度における所得金額は二二一万九九八一円で、これに対する法人税額は五八万〇五九〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(犯則額三八三二万四七四五円)を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税額一〇七〇万三一〇〇円を免れ、

二  同四〇年四月一日から同四一年三月三一日までの事業年度における被告法人の実際所得金額は四二四三万八二九一円で、これに対する法人税額は一〇九〇万七八〇〇円であったのに、同四一年五月三〇日、前記税務署で、同署長に対し、被告法人の右事業年度における所得金額は三三七万四〇四〇円で、これに対する法人税額は七九万五六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(犯則額三九〇六万四二五一円)を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税額一〇一一万二二〇〇円を免れ、

三  同四一年四月一日から同四二年三月三一日までの事業年度における被告法人の実際所得金額は六二七〇万三七五五円で、これに対する法人税額は一四三二万五五六〇円であったのに、同四二年五月三一日、前記税務署において、同署長に対し、被告法人の右事業年度における所得金額は四四九万一七〇八円で、これに対する法人税額は九五万七七六〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(犯則額五八二一万二〇四七円)を提出し、もって不正の行為により右事業年度の法人税額一三三六万七八〇〇円を免れ

たものである。

(なお、判示第四の各事実における所得金額、犯則額、脱税額の計算は別紙第二の(一)「修正損益計算書」および同(二)「脱税額計算書」のとおりである。)

(証拠)

(「四三・五・二三付」等とあるのは「昭和四三年五月二三日付」等の意)

冒頭の事実につき

一  被告人細川の検察官に対する四三・五・二三付、三・一三付各供述調書および大蔵事務官に対する四三・三・七付質問てん末書

一  検察事務官椚谷泰文作成の四三・二・一四付報告書

一  登記簿謄本(四三・五・六付、被告法人の分)

第一の事実につき

一  被告人細川の検察官に対する四三・三・一三付(検甲第一九号証と表示されたもの)、三・一四付、三・一八付、四・二付、四・八付、四・一一付、六・一一付各供述調書

一  安井義治の検察官に対する四三・五・二二付、五・二三付、五・三一付、六・一付、六・六付、六・七付、六・一〇付各供述調書

一  友田和助、吉村四郎、佐竹興一郎、仲埜藤五郎、山本忠雄、乾英子(四三・六・七付)、大西吉美、市川節雄(三通)、安井清勝、当麻恵司、田中修、松田隆、酒元瑞子(四三・三・一付)の検察官に対する各供述調書

一  登記簿謄本二通(進弘企業株式会社および近畿興産株式会社の分)

一  検事難藤務作成の四三・六・六付(三通)、六・八付各報告書

一  検察事務官椚谷泰文作成の四三・六・七付報告書

一  検察事務官中井総門作成の四三・一〇・三付「証拠品の謄本提出について報告書」(二通)

一  検事丸谷日出男作成の四三・五・二九付報告書(三通)

一  押収してある貸出金元帳合計五九枚(昭和四四年押第一六号の五七ないし六三)、当座貯金元帳合計一八八枚(同号の六四ないし七六)普通貯金元帳合計六枚(同号の七七ないし八〇)および登記済権利証書二通(同号の八一)

第二の事実につき

一  昭和四三年(わ)第一二一号事件第七回公判調書中被告人細川の供述部分

一  被告人細川の検察官に対する四三・五・二三付、三・二二付、四・二三付各供述調書

一  松並溥の検察官に対する四三・二・二〇付供述調書

一  乾英子の検察官に対する四三・三・二三付供述調書

一  大蔵事務官大谷雄次郎作成の四三・四・二五付調査てん末書(検甲第二号証と表示されたもの)

一  検事丸谷日出男ほか検察事務官六名作成の四三・二・二二付報告書

一  押収してある必要書類綴一綴(昭和四四年押第一六号の五六)および手帳一冊(水色で、符第四九〇の六号と表示されたもの。同号の五四のうち)

第三の各事実につき

一  昭和四三年(わ)第三三号事件および同年(わ)第六八号事件各第二回公判調書中被告人の各供述部分

一  被告人の検察官に対する四三・二・二一付、三・一三付(検甲第三六号証と表示されたもの)、三・三〇付各供述調書

第三の冒頭および一の各事実につき

一  木本秀治の検察官に対する四三・三・二二付、四・一付各供述調書

第三の冒頭および二ならびに三の各事実につき

一  谷口迅央の検察官に対する四三・三・一五付(検甲第四二号証と表示されたもの)、三・一四付(検甲第四五号証と表示されたもの)各供述調書

一  西岡俊徳の検察官に対する四三・三・一一付、三・一四付(検甲第五五号証と表示されたもの)各供述調書

一  橋本正三の検察官に対する供述調書

第四の各事実につき

一  被告人細川の検察官に対する四三・二・一二付、二・一三付、五・二三付各供述調書および大蔵事務官に対する質問てん末書五通

一  松並溥の検察官に対する四三・二・一二付(二通)、二・一九付各供述調書

一  酒元瑞子の検察官に対する四三・二・一二付、二・一五付、二・二四付各供述調書

一  大西吉美、乾英子の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  証人大西吉美の当公判廷における供述

一  三荒貞雄作成の確認書二通

一  大蔵事務官作成の四三・四・二五付(検甲第三号証と表示されたもの)、四・三〇付(三通)、五・一付各調査てん末書計五通、証明書(確定申告書写)三通、脱税額計算書三通、未納事業税の算出根基、購売品戻りに関する報告書一通

一  検察事務官西岡芳郎作成の四三・七・一八付報告書

一  押収してある互助会綴一綴(昭和四四年押第一六号の一)、ロータリー計算書綴二綴(同号の二、三)、伝票綴六冊(同号の四)、貸出金利息計算書一綴(同号の五)、直接損益元帳三冊(同号の六、七、八)、預け金元帳一冊(同号の九)、決算資料類合計八冊および二袋(同号の一〇ないし一五、一七ないし二〇)、必要書類綴一綴(同号の二一)、奨励金支払明細書綴一綴(同号の二二)

(適条)

被告人細川平一につき

第一の事実 刑法六〇条、二四七条、昭和四七年法律第六一号による改正前の罰金等臨時措置法三条一項一号(刑法六条、一〇条による新旧比照)

第二の一の各事実および二の事実 刑法六〇条、二五三条

第三の各事実 刑法一九八条一項(一九七条一項前段)、前記罰金等臨時措置法三条一項一号(刑法六条、一〇条による新旧比照)

第四の一の事実 昭和四〇年法律第三四号附則一九条、二条、同法律による改正前の法人税法(昭和二二年法律第二八号)四八条一項

第四の二および三の各事実 法人税法一五九条一項

刑種選択 第一、第三、第四の各罪につき各懲役刑選択

併合罪処理 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(第二の二の罪の刑に加重)

訴訟費用の負担 刑訴法一八一条一項本文

被告法人大和高田市農業協同組合につき

第四の一の事実 昭和四〇年法律第三四号附則一九条、二条、同法律による改正前の法人税法(昭和二二年法律第二八号)五一条一項、四八条一項

第四の二および三の各事実 法人税法一六四条一項、一五九条一項

併合罪処理 刑法四五条前段、四八条二項

訴訟費用の負担 刑訴法一八一条一項本文

(裁判長裁判官 田尾勇 裁判官 高木實 裁判官 柳澤昇)

別紙第一「現金横領一覧表」(第二の一の事実)

<省略>

<省略>

別紙第二

(一) 修正損益計算書

(犯則所得分)

<省略>

<省略>

(二) 脱税額計算書

<省略>

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